前回からだいぶ間が空いてしまいましたが、引き続き成羽の代表的な化石を紹介いたします。今回はソテツです。
ソテツは、しばしば南国の風景を演出するためにヤシと一緒に植えられていたり、公官庁や学校の校庭でもよくみかけたりする、日本人にはわりとなじみのある植物です。岡山県の名所で江戸時代初期に造営された「後楽園」では、蘇鉄(そてつ)畑と呼ばれる一角にたくさんのソテツが植栽されています。
現生のソテツは200種以上(300種とすることも)もあり、そのなかのたった1種が日本で自生していて、「蘇鉄」と呼ばれる固有種です。桃山時代ごろから庭園で植栽されるようになったといわれています。
そんなソテツですが、地球史上ではけっこう古い植物で、最古の化石は古生代石炭紀末~ペルム紀初期(約3億年前)から見つかっています。今でも多くの種類がいますが、最も繁栄していたのは中生代。特に三畳紀後期~白亜紀前期にかけては「ソテツの時代」といわれるほど地球上で大きな割合を占めていました。
ちょうど三畳紀後期にあたる成羽の地層からも、ソテツの化石がしばしば見つかります。今までに発見されているのは主に2種類の葉化石で、1つはクテニス属、1つはニルソニア属です。
クテニス属
三畳紀後期に栄えたグループで、白亜紀末に衰退しましたが、新生代始新世まで化石が見つかっています。現代のソテツの葉は羽状複葉といって、鳥の羽のように細長い小葉が葉柄から左右にたくさんついています。クテニスも基本的にはそうなのですが、小葉の長さが短かったり、卵型だったり、葉全体がヘラのような形をしたものもあります。成羽からは3種見つかっており、これらは新種として記載されています。
Ctenis yabei クテニス・ヤベイ
三畳紀後期 成羽町上日名(写真はレプリカ 実物は北海道大学総合博物館所蔵) 小葉が卵のような丸みをおびた形をしている。
ニルソニア属
このグループも中生代に栄えたグループですが、白亜紀末に絶滅してしまいました。成羽でみつかるニルソニアの仲間は7種で、そのうち1種が新種記載されています。
葉の形は多様で現生のソテツのような葉もありますが、線形や倒卵形などの形の葉もあります。さらに、単葉のこともあります。成羽からも単葉のニルソニアが見つかっています。
Nilssonia simplex ニルソニア・シンプレックス
三畳紀後期 成羽町枝(写真はレプリカ 実物は北海道大学総合博物館所蔵) とても細長い小葉を持ち、その中軸が太くてはっきりしていることが特徴。
当時の成羽の森には、今見られるような葉をもつものはもちろん、いろいろな形の葉をもつものもあわせ、さまざまな種類のソテツが生い茂っていたことでしょう。