すっかりご無沙汰してしまいました。
今年の夏は、岩合光昭氏「日本ねこ歩き」展を開催しておりました。ネコ好き学芸員の私としては待ちに待った展覧会でしたが、せっかくなので、化石ネコや現生ネコの標本を展示して、ネコについて科学的に知る「でーれーにゃんこ!」プチ展示も開催いたしました。
今回はそのために新しく入った化石ネコの頭骨レプリカについてお話します。
この標本は、メガンテレオンという、後期中新世から更新世にかけて世界中にいたネコ科マカイロダス亜科のなかまの頭骨です。上顎の犬歯がナイフのように薄く長いことが特徴です。
ライオンやオオヤマネコなど、ネコ科は現在41種が地球上に生息していますが、残念ながらマカイロダス亜科のなかまは更新世末~完新世最初期までには全て絶滅してしまい、現在地球上には存在していません。
ネコとイヌは同じ祖先から進化した
そもそもネコは、イヌやクマも含まれる「食肉目」というグループ全体の祖先「ミアキス」というイタチのような姿の動物から進化しました。ミアキスのなかま(ミアキス科)は6500万年くらい前から現れ、世界中にさまざまな種類がいました。その後、このミアキスのなかまのある種類から食肉目が進化したと考えられています。5000万~4600万年前ごろ(※)にはネコ型亜目とイヌ型亜目が分かれ、さらにネコ型亜目からネコ科が、イヌ型亜目からイヌ科が現れたと推定されています。
ネコ科は基本的に森の中で単独生活を送り、獲物にしのび寄って飛び掛かるハンターとして進化し、対してイヌ科は草原で群れをつくり、長時間走って獲物を捕らえる動物として進化していきました。
マカイロダス亜科
マカイロダスのなかまは、ジャガーくらいのサイズのネコで、上あごには、大型化した長く薄い犬歯があります。前期~中期中新世に、アフリカに現れました。長い犬歯を持つことからサーベルタイガーまたは剣歯虎(けんしこ)ともいわれますが、トラとは違う動物です。メガンテレオンは、マカイロダス亜科のなかでも世界中に広く、そして長い期間生息していたグループで、後にあらわれるアメリカ大陸のスミロドンの祖先または祖先に近いなかまと考えられています。
マカイロダスのなかまは、このナイフのような犬歯をつかって獲物の喉に犬歯を突き刺し、太い血管を切り裂いて捕食したと考えられています。最近の研究によると、顎の力はそれほど強力ではなく、前足でしっかり獲物を押さえつけて、首の筋肉を使って獲物に歯を突き刺したとされています。また、ネコ科としてはめずらしく、集団で狩りをした証拠のある種もいます。
マカイロダス亜科の最後期の種であるスミロドンやホモテリウムが絶滅した要因にはたくさんの説があり、ほかのネコ科の大型化、イヌ科の台頭による生存競争の激化、獲物である草食獣の絶滅、人類による捕獲などが考えられています。しかしはっきりしたことはまだわかっていません。
ネコ科は地球史上最も成功したハンターとされており、過去には、現在みられないネコ科も多く存在したことを知っていただければと思います。
※Hassanin A, Veron G, Ropiquet A, Jansen van Vuuren B, Lécu A, et al. (2021) Correction: Evolutionary history of Carnivora (Mammalia, Laurasiatheria) inferred from mitochondrial genomes. PLOS ONE 16(3): e0249387.