明治41年、虎次郎はフランスに渡りました。当初はパリに入りましたが街の喧騒が肌に合わなかったのか、患った腸チフスの療養も兼ねて郊外のグレー村に移ります。グレー村は、恩師の黒田清輝らがフランスに留学していた時代から日本の画家が好んで滞在、制作していた静かな村ですが、虎次郎の場合は敬愛するミレーを通じて田園への憧れがあったのでしょうか。あるいは、故郷の成羽川とグレー村のロワン川が重なり居心地のいい場所だったのかもしれません。いずれにもしても、グレー村をたいそう気に入り、2週間ほどのつもりが1年も滞在し、精力的に制作に打ち込みました。本作は、虎次郎にしては珍しく遠景の風景画で、新しい画風に挑戦しようとしていた姿勢がうかがえます。

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