イチョウは、茶碗蒸しの具材やお酒のお供「銀杏」が採れる樹木としてみなさんご存じでしょう。各地で街路樹にも利用されていますし、秋の色づいたイチョウ並木はとてもきれいですよね。
私たちにはとてもなじみ深いイチョウですが、実は現在の地球上には、一属一種Ginkgo bilobaしか存在していないことはあまり知られていません(人の手で改良された品種はあります)。そして世界中で見かけるイチョウは植栽されたもので、原産は中国とされていますが、本当の意味で野生状態の「自生」している場所が確認されているわけではありません(絶対に人の手が加えられていないかどうか、過去にさかのぼって調べることは容易ではないからです)。
イチョウは「生きている化石」の代名詞ともいうべき古い植物で、「植物界のカモノハシ」と言われるほどに、近縁種も生き残っていません。およそ2億9000万年前、古生代ペルム紀にイチョウの祖先が出現したとされ、中生代ジュラ紀までには世界中に広がってたくさんの種類が生息していました。化石も世界中から見つかっています。その後、被子植物という新しい植物グループが現れても、白亜紀末の大絶滅にあってもなんとかイチョウは生き延びました。それどころか、北半球では、温暖期には北極地方まで生息域を広げたほどでした。
しかし、中新世から鮮新世にかけて地球が寒冷化すると本格的に減退し始めます。大氷河期になるころには絶滅の危機に。今の種類が中国の南部で細々と生き残ったのでした。
成羽の植物化石層からは、今までに3属12種が見つかっています。一番多く発見されているバイエラ属のなかまは、枝分かれしたとても細長い葉が集まった形をしており、一見してイチョウとはわからないものもあります。一方、ギンコイテスのなかまはバイエラ属よりは現生のイチョウに似ていて、深い切れ込みはありますが、扇形の葉形をしています。
Baiera furcata バイエラ・ファカータ
三畳紀後期 成羽町上日名
Ginkgoites sibirica ギンコイテス・シビリカ
三畳紀後期 成羽町日名畑
詳しい経緯はわかっていませんが、絶滅寸前だったイチョウは、中国で庭木にしたり、銀杏を食用・薬として利用したりするために積極的に植栽されるようになりました。また、中国国内だけではなく、やがて日本や韓国、ヨーロッパなどへも広がり、さらに街路樹としても利用されるようになって、世界中で「よくある」樹木となりました。イチョウは私たちにとって「ありふれた」植物かもしれませんが、とても長い進化の歴史をくぐり抜けたたった1つの種でもあるのです。