プレパレーターは、研究者に同行して発掘作業をしたり、化石を研究所に持ち帰るための処置を施したり、また、持ち帰った化石を岩石から取り出す作業をしたり、レプリカを製作したり、化石にまつわる技術的なことを専門とする技師です。
そのすべてをここで紹介すると長くなってしまうので、プレパレーターの代表的な仕事「クリーニング」について、詳しくお話しましょう。
化石を研究するには、発掘はもちろん、埋まっている岩石から化石をそのままの状態で取りださなければなりません。これをクリーニングと呼びます。研究者が自ら行うこともありますが、恐竜のような大きな化石では、専門的な知識と技術が必要となり、チームで取り組まなければなりません。
岩石には、できた時代や産地によって粒の大きさ、硬さ、壊れやすさなどそれぞれ違いがあります。大きな岩塊だと、硬い部分があるかと思えば、グズグズの部分もあったりします。さらに、岩石の中の化石自体も石化の度合いや風化の進行度に違いがあり、プレパレーターは、それら両方の状態を見極めながら、化石を壊さずに掘り出す手法を考えなければなりません。
クリーニング専用の機器は少なく、全く異なる目的で使われているものを利用することもあります。割り箸や千枚通しといった日用品から、歯医者さんが使うルーターや、エアーチゼル(空気圧で先端を振動させて硬いものを剥離する道具)、サンドブラスター(空気圧で飛ばした砂粒をあてて表面を削る道具)など、特殊な機器を岩石の状態によって使い分けています。
クリーニングはただ削るだけの作業ではありません。単に化石の周りの岩石を取り除いてしまうと、支えを失った化石は、ひび割れの部分から崩れてしまうことも。そのような事態を防ぐため、作業前に薄い接着剤を浸透させて化石自体を強化し、新たな破損が生じないよう手当てしながら作業します。また、完全に割れた部分は、互いにぴったりと合うよう、断面をきれいにしてから元通りの状態に直します。接着しては削り、といったことを繰り返すため、作業はなかなか進みません。10m級の恐竜だと数人がかりで数年かかることもあります。化石の状態が悪くてグズグズな場合、プレパレーターは一瞬絶望的な気分にもなるようです。
さらに、プレパレーターを悩ませるのは、エックス線にでもかけない限り化石がどんなふうに埋まっているのか、あらかじめわからないことです。骨が完全なのか割れているのかも、割れた破片がどこにあるかもわかりません。あるいは唐突に別の骨が出てくることもあります。そのため、化石が一見存在しなさそうな部分でもやみくもに掘るのではなく、慎重に進めつつ、かつ効率よく進めることが大切なのです。
化石をそのままの形で取り出してできるだけ早く研究につなげるため、プレパレーターは持っている知識と技術を総動員してクリーニングしています。
ではどうしたらプレパレーターになれるのでしょう。プレパレーターには、研究者のような博士号や修士号といった資格は必要ありません。いろいろな経歴を持つ人も多く、中には芸術系の大学を出た人もいますので「チャレンジできる人」の幅は研究者よりもずっと広いでしょう。ただ1つだけ確かなことは、手先が器用で緻密な作業が好き、根気がある、幅広い知識が求められるということです。
しかしながら、研究者同様日本では職が少なく、世界でもプレパレーター養成学校のようなものはありません。プロとしてやっていくには、欧米の自然科学系の博物館や研究所の募集を見つけて、応募するのが一般的です。やはり狭き門ではありますが、とてもやりがいのある仕事です。
レプリカを作るための「型」と製作したレプリカ
プレパレーターの中には、化石を型取りして、実物とまったく同じレプリカを作る技術を持つ人もいます。